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2016.10.11

Caetano apresenta Tresa in Tokyo の思い出

カエターノが11年ぶりに日本に来てくれました!
テレーザ・クリスチーナを紹介する、と題がついています。

モントルー・ジャズ・フェスティバルの日本イベントのなかに組み込まれたコンサートということで、オールスタンディングの会場に出かけていきました。

前半に演奏したテレーザ・クリスチーナのステージは、カルトーラの「O Mundo E Um Moinho」からでした。この日の私の思い出は、この最初の一曲に尽きるような気がします。

カルリーニョス・7コルダスという方のギターがそれは端正で美しく、イントロから皆が息をのんで聴き入っていました。

ブラジル音楽が好きになってボサノヴァ以外のものを聴き始めた当時、カルトーラのアルバムを聴いて一番好きになったのがこの曲でした。何より、その歌詞のあまりの厳しさに衝撃を受けた覚えがあります。

"気を付けろ・・・" "世間は粉挽き車だ。お前のちゃちな夢など粉々に砕いてしまう"

カルトーラのアルバムの解説を読むと、希望を抱いて世の中に出発しようとする若い娘へあてたメッセージということでした。優雅で美しいメロディに、何で辛辣な詞がついているんだろうと。そのとき私はブラジル音楽ってどんなものなんだろうと、もっと知ってみたい気持ちになったのでした。

そんなわけで、その当時のこととか、色々な思い出を反芻しながらこの歌を味わっていました。詞は絶望的な一節 "お前は気づいたら崖っぷちに立っているのさ" で終わるのですが、そのあとに「Over The Rainbow」がつけ加えて歌われました。

"幸せの青い鳥が虹を越えていけるなら・・・"  "私にだってきっと出来るわ"

テレーザさんの声は小さくささやくようで、小刻みに震えていました。ステージが見えなかったので思い切り背伸びをすると、彼女は泣いていました。

暗い小さな農場のドロシー、年老いたカルトーラに諭される娘、テレーザさんの純朴な声の響きやメロディー。。全部が一瞬に重なったようで、私も涙が止まらなくなりました。

そんな風に、この夜のコンサートは始まったのでした!

 *  *  *  *  *  *  *

テレーザからバトンタッチして、カエターノのソロ。

声とギターだけのカエターノを聴くのはよく考えたら初めて。ノンサッチ盤からの曲も沢山歌われました。

何曲目かに演奏された「Luz do Sol」が力強さにあふれて素晴らしく、もともとフィンガーピッキングのダイナミクスが豊かなのがカエターノの特徴なのだけども、ギタリストとしての表現力が想像以上なことに驚かされます。生で聴いてるから想像以上なのか・・・ それともカエターノはこの十数年でもう一歩先へ行ったのか・・・ 何となくそんなことを考えながら聴いていました。

一曲終わるごとに、わっと起こる拍手、またあるときは、静かな波のようにいつまでも続く拍手。「ほぉっ」と小さなため息をつく気配。観客のきめ細やかな感性がほんとに素敵。。(しかも全員がつっ立っている!) 私もそのなかに居て、それを作ってるうちの一人で、アーチストはまたその反応を信頼して演奏をつづける。。なんて幸せな光景なんでしょう。

またこの日のカエターノの演奏は、ソロ演奏であることに加えて、全曲が自作曲ということにすごく意味がありました。今までのコンサートではふんだんにカバーが加えられていたけど、今夜は純度100%のカエターノ。本人の演奏で聴いて、曲のたたずまいが露わになっていたし、彼が色々なバリエーションの曲が書けるソングライターで、今までに途方もない量の曲を生み出してきた歴史も、ひしと感じました。若い時分のようなある種エキセントリックな歌い回しも各所に出現しました。

後半に差しかかって「Coração Vagabundo」。
お喋りもほとんどしないで歌っていたカエターノが一端手をとめ、「この曲を歌うにあたって、日本のことがとても思い出されます」というようなことを言いました。

「『Foreign Sound』のリリースの時に私たちはある映像作品を撮りました。残念ながらそれは世に出なかったんだけど。その撮影で京都のお寺に行ったとき、お寺のお坊さんが「コラサォン・ヴァガブンド」が好きです、と僕に言ったんです」

合ってるかな・・? そんなことを話してから、彼は曲を歌いました。

私も自分でもこの曲はよく演奏しますが、カエターノ本人のコード遣いで聴くと全然違うような気がしました。豊かな陰影があって、いろんな感情が入っているようです。私は今まで一体何を見てたんだろう?というような気持ちになりました。

アルバム「Domingo」と同じアレンジのイントロとエンディングがあることで、それだけで曲の全体像がぐんと上等になっているように感じました。カエターノがソロギターでこういうパッセージを弾くイメージがないので、これも小さな驚きでした。(ジルとのツアーから始まったのだろうか?)

 *  *  *  *  *  *  *


アンコールはテレーザがカエターノの曲を数曲歌いました。

彼女の太いくぐもった声がカエターノの曲を歌うと、何となくニーナ・シモンを彷彿とさせます。ピンクのひだのあるワンピースが、70年代の歌手みたい。

「Tigresa」では、二人が交互に歌って、その都度それぞれのキーに転調するという粋なアレンジでした。

時折はさまれるユニゾンが、はっとするようなアクセントになっています。ある時はテレーザが低い声で、ある時はカエターノが高い声で、音程を合わせて。 いたってシンプルなコンサートですが、小さなカッコいい仕掛けが用意されていました。7弦のカルリーニョスはとっても穏やかな笑顔でギターを弾いていました。

2回目のアンコールにも応えてくれて、「Odara」で終演。
艶っぽさと幸福感にあふれたOdaraでした。この曲の私のなかのイメージも、またこれで随分変わりました。


カエターノのオフィシャルFBより、「Odara」

 *  *  *  *  *  *  *

会場から外に出ると、みんな足がカチンコチンになっていて、広場で屈伸してる人も沢山居ました(笑) こんなことも含めて、忘れられない思い出になりそうです。

吉田慶子さんに会ったので、広場のベンチに腰かけてしばし休憩。。感想をいろいろお喋りして帰りました。^.^

 
 
 
 

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